高尿酸血症

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高尿酸血症(痛風)とは?

 痛風(高尿酸血症)とは、尿酸塩沈着症(痛風関節炎、腎障害など)の病因であり、血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるものと定義されています。この値は、男女問わず、同じ値となっています。
尿酸は『プリン体』と呼ばれる物質から産生されるもので、エネルギー代謝や細胞が壊れることで体内に発生します。尿酸は血液に溶けにくく、プリン体の摂取が増えたり、腎臓の機能が低下して腎臓からの尿酸の排泄が減ったり、細胞の破壊が増えて血液内の尿酸値が高くなると、尿酸が血液内に溶けることができなくなって、尿酸は尿酸ナトリウムとして結晶化します。
 尿酸は、血液や尿が酸性に傾いたり、温度が低くなる事でさらに溶けにくくなりますので、尿酸が結晶化して、関節内に溜まることで、関節が痛む、いわゆる痛風発作を起こしたり、腎臓に溜まることで腎臓の機能が低下したりします。

なぜ痛風になるのか?

 血液中に尿酸が増える原因は、以下のように考えられています。

  1. 尿酸が体のなかで多く作られる
    生まれつきの尿酸代謝異常、血液の病気、無酸素運動、アルコール摂取、食事、肥満など
  2. 尿酸の排泄(体の外に出すこと)が悪い
    遺伝的体質、無酸素運動、脱水、アルコール過剰摂取、肥満、腎不全など
  3. 1と2の両方
 実際は、2の腎臓からの尿酸の排泄が低下することで、痛風になる方が多いとされています 。

疫学

 痛風患者の9割は男性とされています。
 実は、古代の人も痛風に悩まされていたようです。例えば、マケドニアのアレクサンダ-大王、神聖ロ-マ帝国皇帝のカルロス五世、プロシア国王フリ-ドリヒ大王、フランスのルイ十四世、宗教改革のルター、清教徒革命のクロムウェル、芸術家ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ビンチ、詩人ダンテ、ミルトン、文豪ゲ-テ、スタンダ-ルやモ-パッサン、天才物理学者ニュ-トン、生物学者ダ-ウィンなども痛風だったと記録されています。
 最近のわが国における大規模調査によると、高尿酸血症の頻度は、成人男性において21.5%~26.2%と報告されています。年齢別の頻度では、30歳台、40歳台が最も高く、30歳台の頻度は30%にのぼっています。また、10歳台における高尿酸血症の頻度は16.3%、その患者数は増加傾向にあります。    

どのような人が痛風になりやすいのか?

  • アルコールをたくさん飲む人
 アルコール摂取量と痛風の発症は、容量依存的に増加します。つまり、アルコールをたくさん飲む人は、痛風になりやすいということです。
  アルコール摂取量と痛風発症の関係

  • 肉類をたくさん食べる人

   食品のプリン体含有量

  • 砂糖入りソフトドリンクをたくさん飲む人

   ソフトドリンクと痛風発症の関係

  • 果糖の摂取量が多い人(果物をたくさん食べる人)
  • BMIが高い人(つまり肥満傾向にある人)

どんな人が痛風になりにくいのか?

 コーヒー摂取量が多い人、ランニング距離が長い人、適度な運動を日常的に行う人は痛風になりにくいとされています。
 (注)たくさんコーヒーを飲めば痛風にならない、ということではありませんので、ご注意ください。

なぜ痛風はいけないのか?

  • 痛風関節炎のリスクが高まる
  ”風が吹いても関節が痛む”ということから名づけられた痛風。一旦関節炎になると、関節が赤く腫れて、熱をおびて痛くなります。よく知られているのが足の親指のつけ根の関節の痛みです。痛風発作で関節炎が起こると、足が痛くて歩けなくなり、日常生活に支障をきたします。

   高尿酸血症から痛風関節炎を発症する危険性      

  • 慢性腎臓病の発症率が高まる
 痛風になると、慢性腎臓病になる危険性が高くなるとされています。尿酸は腎臓から体の外に出ていきますが、腎臓が悪いと、体から尿酸を排泄することができなくなり、その結果、血液中の尿酸値が高くなる、という悪循環に陥ってしまいます。痛風は動脈硬化の原因ともされていますので、毛細血管の集まりである腎臓にも動脈硬化が進行し、さらに心臓や脳の動脈硬化も起こって、狭心症や心筋梗塞、脳卒中といった血管病を引き起こしてしまいます。『痛風で足の関節が痛む』だけでは済まされなくなってしまいます。

  • 尿路結石になりやすい
 尿路結石になりやすい原因として(1)尿量の低下あるいは水分摂取不足、(2)尿中尿酸排泄量の増加、(3)酸性尿の存在、が挙げられます。尿路(腎臓、尿管、膀胱)に石ができると、背中の激痛が走ります。痛風は”石”ができやすい体質になりますので、できるだけプリン体を含む食事を減らす必要があります。また、酸性の食事は尿路結石になりやすいとされています。痛風の方は、アルカリ性の食事をとるようにして下さい。
 よく痛風になったら『水をたくさん飲め』と言われます。その理由は、血液中の尿酸値が高くなっていると尿路結石のリスクが高まるとともに、尿量の低下も尿路結石のリスクを高めるため、水をたくさん飲んで尿量を増やし、尿路結石にならないようにするためです。

  • 高血圧・心臓病になりやすい
     尿酸値が高いと、高血圧になりやすいとされています。尿酸が高い方は、メタボリック症候群も持っていることが多く、結果的に心臓病の発症のリスクが高まると考えられています。
  • 悪性腫瘍(がん)との関係
 近年、血清尿酸値の上昇に伴って、悪性腫瘍による死亡の増加が報告されています。部位別では、男性では呼吸器・消化器、女性では乳腺・生殖器の癌による死亡の増加が観察されています。

痛風の治療について

 痛風の治療の基本は食事療法です。つまり、尿酸をたくさん含む肉類やアルコール(特にビール)、ソフトドリンク、果糖の摂取などを控えることです。また、メタボリック症候群の方は、メタボの改善も必要となります。
 食事療法で改善がない場合には、薬による治療が必要となります。
 痛風の薬による治療には、痛風発作の際の治療と、毎日の治療の2つに分かれます。
 以下に、食事療法と薬物療法について説明します。

どんな食べ物を避けた方が良い??

 プリン体は、モツなどの内臓系にたくさん含まれています。下の表にあるように鶏レバーや牛レバーなどに多く含まれています。また、イワシの干物にもたくさんプリン体が含まれていますので、このような食品はできるだけ避けるようにします。
  お酒を飲む人は『この肴は酒がすすむ!』と思うようなつまみは、プリン体がたくさん含まれていると思った方が良いでしょう。
 また、意外にプリン体を多く含むのが「納豆」です。豆腐は大丈夫なのですが納豆になると、プリン体が多くなります。「健康のために毎日納豆を食べている」という人で、尿酸値が高いと言われた方は、控えましょう。

   食品100g中のプリン体含有量      

アルコールはどの程度が適量?

 血清尿酸値への影響を最低限に保つ目安量としては1日の目安として、日本酒1合、ビール500mL、またはウィスキー60mL程度とされています。
 同じビールでも含まれる尿酸量が異なります。通常のビールであれば、大手飲料メーカーが作っているビールよりも、いわゆる”地ビール”と呼ばれるビールの方が、プリン体の量は多いとされています(下表参照)。また、通常のビールよりも”発泡酒”や”第三のビール”の方が、プリン体含有量が少なくなっています。『どうしてもビールを飲みたい!』という方は、最初の一口だけ通常のビールを飲み、その後は発泡酒などがおススメです。

   アルコール100ml中のプリン体含有量

痛風発作の薬物治療

 痛風発作の際は、痛み止めの内服を行います。痛風発作は、食生活のバランスが崩れたり、アルコールを多く摂取した際に起こることが多いとされています。『何か痛風発作がでそうだなあ』と予感した際は、コルヒチンというお薬を服用します。
 痛風が発作で発見されることもあります。その際は、まず痛み止めで関節の炎症を十分にとってから、尿酸を下げるお薬を開始します。痛風発作の時に尿酸を下げるお薬を開始すると、痛風発作がかえって悪くなるからです。

高尿酸血症の治療

 高尿酸血症の治療薬には、体内の尿酸の産生を抑えるお薬と、体内の尿酸を腎臓から出すお薬の2つに分かれます。どちらの薬を服用するかは、患者さんの状態によって異なります。つまり、体の中の尿酸の産生が高い方は、尿酸の産生を抑えるお薬が適応となり、尿酸の排泄が低下している方は、尿酸を体から出しやすくするお薬の服用となります。
 尿酸を腎臓から出すお薬を飲んでいる方は、尿がアルカリになるようなお薬も一緒に服用します。これは腎臓から尿酸を出すお薬によって、尿中の尿酸の濃度が高くなり、尿が酸性だと結石ができやすくなるため、その予防のために尿をアルカリにしておく必要があるからです。

     高尿酸血症の治療指針

高尿酸血症の治療目標

 高尿酸血症の治療の目標値は『血清尿酸値を6㎎/dl』を目標とします。

浅草クリニックでの治療について

 浅草クリニックでは、総合内科専門医が中心に治療を行います。必要に応じて、心臓専門医や糖尿病専門医と一緒に治療を行います。つまり、痛風だけの治療以外に、痛風に合併する心臓病やメタボリック症候群も同時に治療することが重要だからです。
 痛風自体で体の機能が低下することはそれほどありませんが、前述の通り、血液中の尿酸値が高い状態が続くと、動脈硬化が進行し、心臓病や脳卒中を起こす可能性が高くなります。
 ”たかが痛風、されど痛風”です。人間ドックや健診で尿酸値が高い方も多いと思います。将来のリスクを考えると、痛風を放置せずに、一緒に治療に取り組みましょう。


参考文献
  高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン