COPD・肺気腫

このエントリーをはてなブックマークに追加

COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは?

 COPDとは、英語ではChronic Obstructive Pulmonary Diseaseと記載され、日本語では、”慢性閉塞性肺疾患”と訳されます。それぞれの頭文字をとって”COPD”と呼ばれます。

なぜCOPDになるのか?

 COPDの原因の90%が喫煙(タバコ)によるものとされています。タバコ以外の喫煙(パイプ、葉巻、水パイプなど)、間接喫煙(自分ではタバコは吸わないが、家族の人や周囲の人がタバコをする煙を間接的に吸うこと)もCOPDの危険因子とされています。よって、COPDにならないためには、喫煙をしないことです。

COPDの定義

 以下に、「日本呼吸器学会によるCOPDガイドライン」でのCOPDの定義を示します。やや難しい表現がされていますが、要は『タバコの煙を長期間吸うことによって、肺の構造が破壊され、息切れや咳、呼吸困難が生じる病気』ということです。

 

日本呼吸器学会によるCOPDの定義

『タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患である。呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞を示す。気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に作用することにより起こり、進行性である。臨床的には徐々に生じる労作時の息切れと慢性の咳、痰を特徴とする。』
 

疫学

 世界各国のCOPD の有病率調査では、10%前後とされています。日本人の有病率は8.6%、40 歳以上の約530 万人、70歳以上では約210万人が罹患しているとされています。しかし、実際にCOPDと診断されている人は、ほんのわずかです。
 COPDはただの”タバコ病”ではありません。2001 年のWHO 調査では、COPDは高所得国における死因の第5 位、低・中所得国では第6位でした。わが国では死因の第10 位で、男女ともに65 歳以上あるいは75 歳以上の高齢者の割合が増加しつつあります。

   日本におけるCOPD死亡者数

診断

 COPDの診断は、タバコの煙を主とする有害物質の長期にわたる吸入暴露があり、慢性的に咳や痰、動いた時の呼吸困難などがあり、以下の基準を満たす人を”COPD"と診断します。

  • スパイロメトリーと呼ばれる呼吸機能検査で1秒率が70%未満
      通常、我われは大きく息を吸い込んで、精一杯勢いよく息を吐いた場合、肺の中の空気の70%以上を1秒間で吐き出すことができます。しかし、COPDになるとタバコの煙によって気道の粘膜がむくんだり、痰があることで空気の通れる気管支の内腔の面積が狭くなりますので、精一杯吐き出しても吐き出せなくなります。例えば、吸えなくなるまで息を吸い込んで精一杯吐き出す場合、直径が3㎝のホースを口にくわえて吐き出す場合と、ストローを加えて吐き出す場合は、3㎝のホースを加えている方が、一気に空気を吐き出すことができます。COPDはタバコの煙によって、気管支の内側が狭くなることで、精一杯吐き出せなくなります。
  • 他の気流閉塞を来しうる疾患が除外できる
     つまり、タバコの煙を長期間吸ったこと以外に、気流閉塞を来す原因がない、ということ。

COPDセルフチェック

 COPDの診断は前述の通り、スパイロメトリーという検査を行って確定診断がされます。この検査はクリニックを受診しないと受けることができません。
 ここでCOPDのセルフチェックをご紹介します。この検査は”COPDかもしれない””COPDが心配”という人にお勧めです。
 COPDセルフチェックをお勧めするのは、すべての方ではなく、以下の項目に該当する方です。
  • タバコを15年以上吸っている
  • 長い間、咳や痰、動いた時の息苦しさがある
  • 朝起きて最初にやることは”痰を出すこと”である
  • 同年代の友人と歩いていて、自分だけハーハー言っている、歩く速度が遅れてきた

   COPD自己チェック表

このセルフチェックで17ポイント以上の方は『COPD』の可能性があります。すぐにクリニックを受診して下さい。

なぜCOPDはいけないのか?

 COPDの原因の90%がタバコですので、体に良い訳がありません。タバコを吸っていると、当然ながら肺がんをはじめとするがんのリスクや、心臓病、脳血管障害などの病気のリスクが高まります。
 COPDは肺の病気というよりも『全身病』と認識した方が良いと思われます。
 以下のようなCOPDの全身的影響があります。
  • 筋量・筋肉量の低下
  • 骨粗鬆症のリスク増加
  • 抑うつ状態
  • 糖尿病
  • 睡眠障害
  • 白血球増加・貧血

COPDの治療について

 COPDの治療は、その重症度によって異なります。まず、呼吸機能検査(スパイロメトリー)呼吸困難の度合いで重症度を決定し、治療を選択します。
      

呼吸機能検査(スパイロメトリー)での重症度

 COPDの診断には、FEV1/FVC<70%が必須です。この”FEV1/FVC”とは1秒率と呼ばれ、「肺いっぱいに入った空気を、予測値に対して1秒間でどの程度(何%)吐き出せるか」の指標です。前述の通り、COPDになりますと、気管支の内腔が炎症や痰で狭くなりますので、1秒間に吐き出せる量と率が低下します。COPDでは、肺に入った空気を1秒間に60~70%しか吐き出せなくなってしまいます。そうなると、吐き出せなくて出れなくなった空気が肺に溜まってしまいますので、結果的に呼吸困難が出てきます。
 一方、”FEV1”とは、1秒量と呼ばれ、「1秒間に何リッターの空気を吐き出せるか」を測定したものです。COPDの重症度は、この値の予測値に対する割合で測定します。COPDが重症になればなるほど、この割合が低下します。

   COPDにおけるスパイロメトリーによる重症度判定       

修正MRC質問票での重症度

 COPDの呼吸困難の重症度は修正MRC質問票を用いて評価します。症状がグレート0~4のどの程度か判断します。

   MRC質問票におけるCOPD重症度判定       

過去1年間の増悪の頻度

 過去1年間にCOPDが感冒などによって悪化したことによる咳の増加や痰の増加、呼吸困難の悪化(これを”増悪(ぞうあく)”と言います)の頻度も考慮します。

スパイロメトリーと修正MRC質問票、過去1年間の増悪の回数での総合的な重症度判定

 COPDの治療を選択するにあたり、まず修正MRC質問票の結果をみます。質問票で0または1であれば、症状レベルは低いと判断し、2以上であれば、症状レベルは高いと判断します。
 次に、スパイロメトリーによる重症度を検討します。Ⅰ、Ⅱが下の表でAまたはB、Ⅲ、ⅣがCまたはDとなります。
 気流制限が1または2で、増悪頻度が過去1年間で1回以下であれば、リスクは低いと判断します。一方で、3または4で増悪頻度が1年間に2回以上であれば、リスクは高いと判断します。
 最後に、総合的に判断し、A~Dのどのカテゴリーに入るか検討します。

   COPDカテゴリー分類

COPDの薬物治療の実際

COPDの患者さん全てに

 喫煙をしている患者さんは、まず禁煙を行います。禁煙治療は、飲み薬による保険での治療と、ニコチンガム、ニコチンパッチなどの保険を使わない治療があります。何はともあれ、まずは禁煙を行います。
 同時に、インフルエンザワクチンの予防接種を必ず受けて下さい。COPDの患者さんはインフルエンザにかかりやすく、重症化しやすいからです。

吸入療法

 COPDの治療の基本は、霧状になった薬を吸入するか、粉状になった薬を吸入するかの2つの治療が主流です。以下にそれぞれのお薬の特徴について説明します。

短時間作用型抗コリン薬および短時間作用型β2刺激薬

 短時間作用型の抗コリン薬もしくはβ2刺激薬は、運動したり入浴したりと日常生活の中で体に負荷がかかった際に生じる呼吸困難を一時的に緩和するための吸入のお薬です。よって、これらのお薬は、それほど呼吸困難が強くなく、リスクが低い患者さんが頓用(症状がある時だけに使う薬)として使用されます。
 また、リスクが高い患者さんの症状緩和としても使用されます。

長時間作用型抗コリン薬

 最も効果のあるCOPDの治療薬です。1日1回、朝の吸入で効果が24時間持続し、呼吸機能検査での改善効果のほか、気流閉塞の進行や死亡率を抑制する可能性が報告されています。
 副作用としては、口が渇いたり、前立腺肥大のある方は尿が出にくくなったり、緑内障のある方には症状を悪化させることがあります。

長時間作用型β2刺激薬

 β2-アドレナリン受容体を刺激することで気道を広げ、COPDによる気流制限を改善して、呼吸困難、咳や痰などの症状を和らげます。

長期間作用型β2刺激薬と吸入ステロイド配合薬

 長期間作用型β2刺激薬と吸入ステロイド配合薬は、リスクが高い患者さんに適応となり、COPDの増悪を繰り返す患者さんに有効とされています。

吸入以外の内服薬

 症状に合わせてキサンチン製剤と呼ばれる薬や、去痰薬などを組み合わせますが、これらは補助治療です。COPDの治療の基本は吸入薬です。

COPDの薬物治療以外の治療

呼吸リハビリテーション

 呼吸は実は筋肉で行われています。COPDの患者さんは、動くと息が切れるのでなかなか動こうとしなくなります。そうすると筋肉が痩せ細ってきて、さらに筋肉量が落ちて、ちょっと動くだけで息切れがでるという、負のサイクルにはまってしまいます。
 このようにならないために、体を動かしながら筋肉量を維持し、呼吸が苦しくならないようにリハビリを行います。

酸素療法

 スパイロメトリーの重症度で最重症と診断された方は、まず吸入治療を行いますが、それでも体の酸素量が不足している場合は、酸素療法を行います。
 酸素療法は、1日中酸素を吸うことで患者さんのQOL(生活の質)を向上させたり、生存率を高めることが証明されています。
 自宅では、空気中の酸素を濃縮して90%以上の酸素濃度としたものを吸入します。外出するときは、液体酸素が入った携帯用のボンベを持って、そこから酸素を吸入します。

外科療法

 内科治療を行っても改善しない場合には、手術で膨らみすぎた肺の一部を切除する方法もありますが、基本的にはCOPDの治療は薬物療法となります。

リスク別の薬物治療

カテゴリーAの患者さん

 定期的に吸入するお薬はなく、動いた時に呼吸困難がでた場合や、咳や痰がきれない時に短時間作用型抗コリン薬または短時間作用型β2刺激薬を吸入します。

カテゴリーBの患者さん

 長時間作用型抗コリン薬または、長期間作用型β2刺激薬を定期的に吸入します。これらの吸入薬は一般的に1日1回の吸入で十分に効果が得られます。これらの定期吸入でCOPDの症状がでる場合には、グループAの患者さんが使用している短時間作用型の吸入薬を使用します。

カテゴリーCの患者さん

 長期間作用型β2刺激薬と吸入ステロイド配合薬または、長時間作用型抗コリン薬の定期吸入が第一選択薬です。

カテゴリーDの患者さん

 基本的にはカテゴリーCの患者さんの吸入治療と同様です。それでも症状がある場合には、内服治療や酸素療法、外科治療を組み合わせます。

   COPDのカテゴリーによる治療薬の選択

浅草クリニックでの治療について

 浅草クリニックでは、呼吸器内科専門医・指導医の内山医師が担当します。COPDは肺の病気とは考えず、全身病と捉えて肺以外の合併症である心臓病、脳血管の病気やがんのチェックなど、総合的に診察を行います。
 ”肺は良くなったけど、その他の臓器は手遅れだった”では本末転倒です。総合内科専門医・指導医としての視点からもCOPDの治療を行っていきます。


コラム

”COPD”と”肺気腫”って同じ?

 わが国では、これまで”COPD”という名前や”肺気腫”という病気の名前は一般的ではありませんでした。現時点でもCOPDや肺気腫と言われても、ピンとこない人がたくさんいらっしゃると思います。実際、COPDや肺気腫という名前の認知度は非常に低いものです。また、医療関係者でもCOPDと肺気腫の違いを正確に知っている人は少ないと思います。
 せきやたんなどの症状が、長い間続く状態(病態)を「慢性気管支炎」と呼びます。また、タバコの影響で気管支や肺胞に炎症が進んで肺胞が壊れてしまった状態を「肺気腫」と言います。
 この『慢性気管支炎』と『肺気腫』が伴って『COPD』と呼ばれます。

健診で「白血球が多い」と言われた方へ

 健康診断の結果表で「白血球が多いので経過をみましょう」とか、「白血球が多いので、精密検査を受けて下さい」、もしくは人間ドックの面接で「白血球が多いですね」と言われた方がいらっしゃるかと思います。
 白血球は通常、感染症や血液の病気などで上昇します。白血球以外の検査所見で、感染症や血液の病気が疑われれば、そちらの精密検査を行います。しかし「健診を受けた時は風邪もひいてなかったしなあ」とか、「その他の血液検査で感染症や血液の病気は否定的」という方は”タバコによる白血球増加症”が疑われます。
 実際、我われの施設で健診・ドック受診者を対象に白血球が多かった人を調査したところ、白血球が多い原因の実に90%以上の方が感染症や血液の病気ではなく、タバコによる上昇でした。
 タバコを吸っていて自覚症状は全くなくとも、体の細胞レベルではすでに”黄色信号”を出しているわけです。健診で白血球が多いと言われた方は、すぐに禁煙しましょう。

タバコを吸っていて90まで元気に生きていた人がいるぞ!

 COPDと診断されて医者から”タバコが影響してますね。禁煙しましょう”
 こういわれて『確かにそうだな』と思う方もいらっしゃれば、『タバコ、タバコって言ってるけど、俺の知り合いの人なんて、1日40本吸ってても90まで生きてたぞ。そんなにタバコが悪いのか?!』と思われる方もいらっしゃるでしょう。
 確かにそうですが、実は最近の研究で”タバコに強い人と弱い人がいる”ということが分かってきています。つまり、ちょっとだけタバコを吸ってても病気になる人もいれば、たくさん吸っても病気にならない人がいるということです。お酒に強い人と弱い人がいるのと同じです。
 少しでもタバコを吸っていても病気になる人は、タバコに対しての感受性が強く、それだけタバコの影響を受けてしまいます。タバコの煙の中の有害物質によって、肺の細胞が溶けやすくなっています。よって多少の喫煙で肺に限らず、全身の病気を起こしてしまいます。
 一方で、タバコに強い人は、いくら吸っても感受性が低いので、肺の細胞は影響を受けず、病気にもなりにくいのです。
 現時点では、自分がタバコに強いのか弱いのかを調べる検査はできません。重要なことは”タバコは万病のもと”ということです。やはり禁煙に勝る治療はない、ということです。


参考文献
  GOLD2011日本語版
  http://www.goldcopd.org/uploads/users/files/GOLDReport2011_Japanese.pdf
  日本呼吸器学会COPDガイドライン